僕と君の間にあるもので世界をかえることについて

アニメ『輪るピングドラム』を巡る考察的な何か(突貫工事のち10年放置)

Ⅰ きっと何者にもなれないお前たちに告げること

生存―戦略―!という謎の叫びと共に、死んだはずの陽毬が起き上がって私たち(冠葉や晶馬含め)を引きずり込んだ不思議空間クリスタル・ワールドは、もうひとつの<氷の世界>です。
あそこに物語の2つめの鍵『信じること』があります。

イマージーン!
きっと何者にもなれないお前たちに告げる。
ピングドラムを手に入れるのだ!

ピングドラムとは何なのか?何者にもなれない?そもそもあのペンギン帽子は一体何で、あの空間は何なんだ。そしてお前は誰なんだ。呆然とする私たちの耳に飛び込んでくる『ROCK OVER JAPAN』。バンクで流れない部分にはこんな歌詞があります。(幾原監督が、なぜ「イマージーン!」なのか、バンクでは流れない部分の歌詞にヒントがあるとおっしゃってました)

NEW YORKの寒い夜 JOHNが倒れた時も
俺達はいつまでも あの歌を繰り返した
宗教者も政治家も 科学者も預言者
もう誰も 明日さえも 見えなくなっている
(『ROCK OVER JAPAN』石橋凌)

ジョン・レノンが倒れた時も彼の歌を繰り返し歌ったということだと考えられます。宗教や政治等の単語と合わせて考えると名曲『イマジン』でしょう。
我らがプリンセス・オブ・クリスタル様は一体なにを『想像しろ』とご命令なのでしょう。とりあえず『イマジン』の歌詞をみてみます。

Imagine there's no heaven / 想像して、天国なんてないんだと
It's easy if you try / 思ってみるのは簡単だろう
No hell below us / 僕らの足元に地獄はなく
Above us only sky / 僕らの頭上にあるのはただの空
Imagine all the people / 想像して、人類みんな
Living for today / 今日のためだけに暮らしていると
Imagine there's no countries / 想像して、国境なんてないと
It isn't hard to do / 考えるのは難しくないだろう
Nothing to kill or die for / 殺す目的も死ぬ目的もないし
And no religion too / 宗教もない
Imagine all the people / 想像して、全ての人々が
Living life in peace / 平和に暮らしていると
You may say I'm a dreamer / 君は僕を夢想家と言うかもしれない
But I'm not the only one / でも僕一人だけじゃないんだ
I hope someday you'll join us / いつか君も仲間になればいいのに
And the world will live as one / そうすれば世界はひとつになるだろう
Imagine no possessions / 想像して、所有もないと
I wonder if you can / 君にできるだろうか
No need for greed or hunger / 貪欲も飢餓も生まれる必要はない
A brotherhood of man / 人類の兄弟愛
Imagine all the people / 想像してみてよ
Sharing all the world / みんなで世界を共有しているんだと
You may say I'm a dreamer / 君は僕を夢想家と言うかもしれない
But I'm not the only one / でも僕一人だけじゃないんだ
I hope someday you'll join us / いつか君も仲間になればいい
And the world will live as one / そうすれば世界はひとつになるだろう

宮沢賢治の思想に似ていますね。

世界ぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
(農民芸術概論/宮沢賢治

悲劇がそこにあることを知っている、それでも幸福を思い描け。
ただの現実逃避だと批判する人もいるでしょう、しかしこれは、見えるものを見ないという意味では絶対ありません。むしろ、見えないものをも見た上で……遠くの土地で、近くの町で、今この瞬間も何かに苦しんでいる人がいることを考え……、それでも幸せな世界をしっかり心に描いて、そのために出来ることから頑張っていこうという強い意思です。

荻野目苹果はムチャクチャな少女でした。
『デスティニー!』と所構わず雄たけびをあげ、彼女の妄信する<運命>のために爆走していきます。このとんでもない妄想力、いえ、想像力こそが『イマージーン!』の力。……空回ってましたけど、信じる力というものは良くも悪くも凄まじいものでした。

しかし彼女はその暴走をとめることになります。父親の再婚、多蕗とゆり、晶馬の事故。加害者家族と被害者家族としての運命の出会い。もう見ないふりなんてできない現実に直面します。

イマジン、想像せよ
宇宙は美しく完璧であると、
預言者
君達よりうまく
それを想像するだけである。
(『イリュージョン』リチャード・バック村上龍)

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