僕と君の間にあるもので世界をかえることについて

アニメ『輪るピングドラム』を巡る考察的な何か(突貫工事のち10年放置)

はじまりが告げる嘘と、メビウスの希望。

輪るピングドラム』の至る所にちりばめられた「メビウスの輪


監督がOPの映像や使われる歌の歌詞で思いっきりネタバレする傾向がある方であり、また特定のキーワードを歌詞に入れることを指示される方で、今回も同じだと仮定しての考察です。

輪るピングドラム』の作中や歌、CDジャケット等にメビウスが何度も出てきています。
メビウスの輪はカセットテープ、またベルトコンベアにも使われている場合があります。日常でよく見かける△のリサイクルマークの正式名は「メビウスループマーク」。ピングドラムの「95」を囲む円状の矢印はスチール缶リサイクルマークに似ていますが、これもメビウスの輪のようなものと考えてもいいんじゃないかと思います。カセットテープやベルトコンベアのイメージは、こどもブロイラーにありましたね。
おそらくOPの歌詞に「メビウス」が指定されていた、だから、やくしまるえつこさんはあの絵を意識して描かれたのでは?と。


180度回転したメビウスの輪を切り開くと一つの大きな輪になることはよく知られています。ただしその輪はねじれたままであることはご存知でしょか?私は実際にやってみるまで勘違いしていました!
その輪をどんどん切り開き続けると?実際に180度回転のメビウスの輪を作って実験してみるとわかります。

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どんどん切り続けて出来る、沢山の輪がからまったものが『混線する世界線』。
はじまりの場所が告げる嘘』に騙されたまま、世界を「ただの輪」だと考えると、このこんがらがった世界線はできないんです。
世界ははじめからねじれていて、永遠にスパッと割り切れはることはない。例えば世の中の問題を、善と悪の二項対立では解決できないように。日の当たる場所(光)と当たらない場所(闇)があるだけで、それがクルクルと反転しつづけるのがこの世界…アニメ内で繰り返される、白と黒の反転イメージがこれに当たると思います。



メビウスの世界観は、宮沢賢治の考えでもあります。
彼は、私たちは透明な軌道を進んでいる(春と修羅/小岩井農場)。そして、汽車は巨きな水素のりんごの中をかけていることになっています。(春と修羅/青森挽歌) ※『春と修羅』は『銀河鉄道の夜』の元になった詩集です。
メビウスの輪の立体型であるクラインの壷のような透明なリンゴの中を、そらの孔からそらの孔への透明な軌道を進んでいるというイメージ。これが『銀河鉄道の夜』の世界観で、汽車の軌道は当然メビウスの帯となっている。しかも汽車に乗ってる私たちはそれぞれ、宇宙リンゴを持っていて、その中に汽車が走っていて、そこに私たちが乗っていて・・・。

そして重要なのは、賢治は万物流転&輪廻転生を信じていたことです。『銀河鉄道の夜』の初期形では、親友と一緒に行きたかったのにと嘆くジョバンニに対し、ブルカニロ博士がこう語ります。

ああ、そうだ。みんながそう考える。けれども一緒に行けない。そしてみんながカムパネルラだ。お前が会うどんな人でもみんな何度もお前と一緒に苹果を食べたり汽車に乗ったりしたのだ。だからやっぱりお前はさっき考えたように、あらゆる人の一番の幸福をさがしみんなと一緒に早くそこへ行くがいい、そこでだけお前は本当にカムパネルラといつまでも一緒に行けるのだ。

たくさんのメビウスの輪ひとつひとつを<世界/物語>と考えてみます。
これらのどれかが、例えば『銀河鉄道の夜』初期形であり、最終形であり、アニメ版であり、『かえるくん、東京を救う』です。かえるくんは機関車に乗って、ジョバンニも再び銀河鉄道の乗って、銀河鉄道の乗客たちもそれぞれの駅=運命の至る場所から『輪るピングドラム』の世界へ降り立ちます。(「苹果は(中略)この世界とあっちの世界を繋ぐものだよ」というわけで、苹果も様々な物語とピングドラムの世界をつないでいます。)


「でも、死んだら全部おしまいじゃん」 「おしまいじゃないよ! むしろ、そこから始まるって賢治は言いたいんだ。」そう、死は終わりではなく始まりでもある。このネジレ…A面とB面がひっくりカエル(※1)世界観、これがアニメのベースになっている。
そしてそれは『出会うことがないはずの人たちとの出会い』と『いつか出会って別れた大切な人と再び出会える』という希望となります。『輪るピングドラム』はその奇跡(※2)のアニメなのです。


※1 カエル:なぜ苹果の行った怪しいおまじないのアイテムが「カエル」だったのか。おまじないとは、ある状況を自分の都合の良い状態に変える儀式。つまりカエル=変える。だから運命を変える者・苹果にはカエルのイメージが付きまとう。

※2 出会いの奇跡寺山修司の『幸福論』で重要なのが「出会い」です。また『さよならペンギン』という大西科学のSF小説の主人公は、「先生」との出会いが生きている『もう一人の渡瀬眞悧』だと考えて読むと面白いです。他にも、世界から失われた子どもたちについて、偽薬、シュレディンガーの猫、エヴェレットの多世界解釈、世界の観測者の同類者探しと、出会った時から相容れることのない宿命の同類者…『輪るピングドラム』にも出てくるモチーフが出てきたり。
別のペンギンSF『ペンギン・ハイウェイ』には、世界の果てからやってきた不思議なお姉さんも登場。こっちはプリクリ様の元だったりしないかしら。


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